売買契約書
不動産の売買条件を書面にまとめた、契約の根幹となる書類です。売買代金や手付金の額、引渡し・決済の時期、支払方法、契約解除の条件、契約不適合責任の範囲などが条文形式で記載されます。売主・買主双方が内容を確認したうえで署名・押印し、各自1通ずつ保管します。口約束と異なり、後々「言った・言わない」のトラブルを防ぐための重要な役割を持ちます。
重要事項説明書
宅地建物取引業法にもとづき、宅地建物取引士が契約締結前に交付し、口頭で説明することが義務付けられている書面です。物件の権利関係、法令上の制限、道路・インフラの整備状況、契約解除や損害賠償に関する事項などが記載されます。売買契約書とは別の書面であり、「契約前」に説明を受ける点がポイントです。内容に不明点があれば、署名前に必ず確認しましょう。
手付金と手付解除
手付金は、契約時に買主が売主へ支払う金銭です。民法上、当事者が契約の履行に着手するまでの間であれば、買主は支払った手付金を放棄することで、売主は受け取った手付金の倍額を返還することで、契約を解除できます(解約手付)。これは違約金とは異なる制度で、理由を問わず一定期間内であれば契約から離脱できる仕組みです。契約書には、手付解除ができる期限が定められるのが一般的です。
契約不適合責任
2020年の民法改正で整理された、売主が負う責任の考え方です。引き渡された不動産が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合、買主は売主に対して修補等の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除を求めることができます。以前の「瑕疵担保責任」よりも買主が取り得る手段が明確になった点が特徴です。契約書では、責任を負う期間や免責の範囲を特約で定めることが多くあります。
(旧)瑕疵担保責任
2020年の民法改正前に用いられていた考え方で、引き渡された物に「隠れた瑕疵」があった場合に売主が負う法定責任を指しました。改正前は、買主が請求できる手段は契約の解除と損害賠償請求に限られていましたが、改正後の契約不適合責任では、追完請求や代金減額請求も明文化されています。古い契約書のひな形や中古住宅の個人間売買の場面では、今も「瑕疵担保責任」という表現が使われることがあります。
クーリングオフ
宅地建物取引業法にもとづく制度で、売主が宅建業者であり、かつ買主が事務所等以外の場所(喫茶店、買主の自宅等)で買受けの申込みをした場合に適用されます。宅建業者からクーリングオフについて書面で告げられた日から一定期間以内であれば、買主は書面により無条件で契約の申込みを撤回・解除できます。売主が宅建業者でない個人間売買や、宅建業者の事務所で契約した場合などは適用されない点に注意が必要です。
停止条件付契約
契約に付した一定の条件が成就することによって、はじめて契約の効力が発生する契約形態です。不動産売買では、たとえば隣地との境界確定や、開発許可の取得などを停止条件とするケースがあります。条件が成就しない限り契約自体の効力が生じない点で、いったん有効に成立した契約が特定の事由で解除される「解除条件」や、後述の住宅ローン特約とは性質が異なります。
危険負担
契約成立から引渡しまでの間に、当事者双方の責任によらない事由(火災、地震、洪水など)で目的物が滅失・損傷した場合、その危険(リスク)を売主・買主のどちらが負うかという考え方です。民法上、目的物の引渡しができなくなった場合、買主は代金の支払いを拒むことができるとされています。契約書では、引渡し前に生じた滅失・毀損の取り扱いについて、特約であらかじめ明確に定めておくのが一般的です。
住宅ローン特約(白紙解除特約)
買主が住宅ローンの本申込みを行ったものの、金融機関の審査で融資が承認されなかった場合に、契約を無条件で白紙解除できる特約です。融資特約とも呼ばれます。この特約が定める期限内に融資が不成立となった場合、買主は違約金を負うことなく契約を解除でき、支払い済みの手付金も返還されるのが一般的です。特約の対象となる金融機関やローンの種類、期限は契約書に明記されます。
心理的瑕疵の告知義務
過去にその不動産で自殺・他殺・火災による死亡等の事案が発生していた場合など、買主の心理に影響を与えうる事実を指します。宅地建物取引業者には、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について告知する義務があります。国土交通省のガイドラインでは、事案からの経過年数など判断の目安が示されていますが、事案の内容や経過年数、周知性などによって個別に判断される点に留意が必要です。
物理的瑕疵の告知
雨漏り、シロアリの被害、給排水管の故障、土壌汚染、地盤沈下など、建物や土地に存在する物理的な不具合を指します。売主がこうした事実を知っている場合、付帯設備表や物件状況等報告書(告知書)を通じて買主に開示することが求められます。知っていながら告知しなかった場合、後日、契約不適合責任や説明義務違反として問題になることがあるため、心当たりのある事項は正直に申告することが大切です。
境界明示義務
売主が引渡しまでに、隣接地との境界を買主に対して明示する義務です。法律上の明文規定というより、不動産取引の実務慣行として契約書に明記されることが一般的です。境界標が見当たらない、あるいは隣地所有者との認識が食い違っている場合には、土地家屋調査士による測量や、隣接地所有者立ち会いのもとでの境界確認・境界確定測量が行われることがあります。
付帯設備表・物件状況等報告書
付帯設備表は、給湯器、エアコン、キッチン設備、照明器具などの有無や故障の状況を一覧にまとめた書面です。物件状況等報告書(告知書)は、雨漏りやシロアリ被害、越境の有無、近隣とのトラブルの有無といった物件の履歴・現況を売主が申告する書面です。いずれも売主が作成し、買主に交付されるもので、契約内容の一部として重要な位置づけを持ちます。
手付金等の保全措置
宅地建物取引業法にもとづく規制で、売主が宅建業者である場合に適用されます。未完成物件では代金の一定割合、完成物件では代金の一定割合または一定額を超える手付金等を売主が受け取る際には、銀行の保証や保険法人の保証保険などによる保全措置を講じることが義務付けられています(一部例外あり)。万一売主が倒産等で引渡しができなくなった場合でも、買主が支払った手付金等を保全するための制度です。
反社会的勢力排除条項
契約当事者が暴力団員をはじめとする反社会的勢力に該当しないことを表明・保証し、万一該当することが判明した場合には、相手方が無催告で契約を解除できる旨を定める条項です。暴力団排除条例の整備等を背景に、近年の不動産売買契約書では標準的な一般条項として盛り込まれるようになっています。
契約の解除と違約金
売主・買主のいずれかが引渡しや代金支払いなどの債務を履行しない場合(債務不履行)、相手方は相当の期間を定めて履行を催告したうえで、契約を解除できるのが原則です。不動産売買契約書では、あらかじめ違約金(損害賠償額の予定)の割合を定めておくのが一般的で、債務不履行による解除の際には、実際の損害額を証明しなくても、その定めに従って違約金を請求できます。